鍼の先端の尖りの程度


私が未だ学生だった頃(36~33年前)は、銀鍼なども多く使用されており、「鍼も当然尖っているもの」と、その様に思っていました。

 

しかし、軟らかい銀鍼による折鍼事故や、低周波の電気治療が多くなるに従い、その治療に耐えられるように、ステンレス鍼が一般的に使用されるようになりました。

そして、その当時は、ステンレス鍼は痛みを起こしやすい素材であるというような認識が、鍼師の中にはあり、ステンレス鍼を嫌っておられた鍼師もいたように記憶しております。

 

そして、私も開業し、この鍼を用いて診療を始めると、この痛みの問題で一苦労することになってしまったのです。

より高い治療効果を出すためには、一定以上の鍼の深さが必要です。

しかし、その深さでの治療を施そうとすると、痛みを生じて、治療を難しくするケースが少なからずあり、原因を追及していくと、鍼の先端の尖りに問題のあることが分かったのです。

 

 指先でしか見ることの出来ない全盲の私でさえ、よくよく観察してみると、細かな形状こそ分かりませんでしたが、その異常をはっきりと確認することが出来ました。

そこで、晴眼者に1千倍の光学顕微鏡で、確認してもらったところ、先端のあまりの酷い形状の説明に、あきれてしまいました。

 

*その針の先端の形状とは!

 

二またに分かれていたもの

単純に円筒形に切断されていたもの

ドライバーのマイナス型になっていたものなど、上げればきりがありません。

 

鍼の痛みというのは、先端部分の尖りに大きく影響されるのです。

「鍼は細いので、痛くはありません」などという記事を見ることがありますが、鍼の胴体部分の太さがいかに細くとも、先端の尖り具合によっては、痛みを出してしまうのです。

人の感覚では、針の先端は少なくとも、1ミクロン(1000分の1mm)程度の尖りが必要です。

 

メーカーによっては、努力をしているところもありますが、現在のところ、「この鍼であれば、納得いくな」と思える鍼は残念ながらほとんどございません。

更に、悪いことには、粗悪な安価な中国の鍼がそのシェアを広げてきているのです。

これは、鍼師が経営上中国の安い鍼を安易に求めていることが原因なのですが

 

また、皆様もご存じのように、多くの商品には「ジス企画」というものがあります。

その性能や品質を一定以上に保つために国が作る基準ですね。

ところが、厚生労働省の基準というのは、単に消毒のみで、鍼が曲がっていたとしても、その先端が尖っていなくても、全く規格がなく、問われることはないのです。

 

この様な状況の中では、どんなに鍼師がより良い診療をしようと努力しても、鍼の痛みが妨げとなり、好ましい結果を望むことは難しいと思われます。

 

そこで、私の取引業者にその尖りについて「何とかならないか」と、何回となくアドバイスを兼ねて申し入れをしたこともありましたが、「鍼の製造工程上難しい」との返答でした。

そして、「あなた以外に、そんなことを言う鍼師はいない」とも言われたのです。

 

この様に、より良い治療結果を得るためには、先端のよく尖った鍼が必要なのです。